非専門医が「アレルギー科」標榜するケースも多く 外用剤を「できるだけ薄くのばす」などガイドラインに外れた治療法も~アレルギー疾患の治療実態を医師・患者両面から大規模調査~

2014年9月09日 [火]

アレルギー疾患対策の均てん化に関する研究班(研究代表者・国立成育医療研究センター・斎藤博久)が2014年2~3月に行った医師・患者双方の大規模全国調査の結果を公表した。それによると、アレルギー科と標榜していてもアレルギー学会専門医でない場合がかなりあり、非専門医でも専門医より多数の患者を診ているケースがあることが分かった。また、「アナフィラキシー経験がある患者に対し、5割しか「エピペン処方」しない」「2~5割が、外用剤を「できるだけ薄くのばす」指導をする」「2割弱は、喘息発作が月1回以上あっても発作予防薬を使わない」など、ガイドラインに外れた治療をする医師が珍しくない実態が明らかになった。ガイドラインと乖離した治療は非専門医だけでなく専門医にも見られた。

この調査は、患者側の要望(厚生労働省疾病対策課アレルギー対策作業班2011年2月会議)を受けて厚生労働省と日本アレルギー学会が協力する形で実現した。そのため医師・患者双方の視点から実査することとし、医師側はアレルギー科標榜医療機関に対する郵送方式で、患者側はインターネット方式でそれぞれ行った。さらに、診療実態をより正確につかむため症例検討型の調査票を用いた。

有効回答は医師1052人、患者8240人と、この種の調査では例をみない大規模な数を得た。代表的なアレルギー疾患として、「アトピー性皮膚炎」「アレルギー性鼻炎」「気管支喘息」「食物アレルギー」を採りあげている。

今回の調査による主な結論は以下の通り。

1.アレルギー科標榜医がアレルギー学会専門医でない場合が少なくない

入口に「アレルギー科」と表示している医療機関でも、アレルギー学会の専門医資格を持つ医師がいるとは限らない。今回の調査回答者のうち専門医資格者は30%にとどまり、学会会員は52%であった。また、患者側も「自分のかかりつけ医が専門医かどうか、わからない」とするものが多く、最も少ない食物アレルギーで46%、最も多いアレルギー性鼻炎で70%であった。

2.非専門医でも専門医より多数の患者を診ている医師がいる

専門医だからといって一概に患者数が多いわけでもなく、逆に非専門医の診療患者数が少ないわけでもない。1週間に100人以上診るような医師でも、非専門医が占める割合の方が多かった。一方で、患者数の少ないアレルギー専門医がいることは問題ではない。免疫系の希少疾患や最重症の患者のみを診療している大学病院及び研究病院の医師には、そうした現象が起こりうる。

3.ガイドラインから外れた治療をしている医師がいる

診療ガイドラインの最新版の所持率は、小児気管支喘息が最も高く47%で、食物アレルギーが最も低く38%であった。専門医の方が非専門医よりも所持率が高く、理解度も高い傾向にあった。ところが実際の診療内容のなかにはガイドラインに外れたものも珍しくなく、かつそのような治療をする医師には専門医も含まれていた。

ガイドラインに外れた診療内容の代表例は、以下の通り:

【アトピー性皮膚炎】
 1. いまだにステロイド「使いたくない」患者が多数派
 2. 外用剤を「できるだけ薄くのばす」方がよいとの誤解が多い
 3. 1割が「入浴時の石けん不使用」
【アレルギー性鼻炎】
 1. 「抗原の除去と回避」実施は忘れられつつある?
 2. 「日常生活に支障がない」レベルに症状コントロールできているのはわずか3割
 3. 根拠のない「民間療法の実施」も珍しくない
【喘息(小児・成人)】
 1. 発作が月1回以上あっても2割弱が「発作予防薬を服用していない」
 2. 発作が月1回以上あっても3割弱が「発作治療薬を服用していない」
 3. いまだに発作治療薬を予防薬(発作時以外で使う薬)として定期的に使っている
【食物アレルギー】
 1. アナフィラキシー既往でも「エピペン処方」は5割のみ
 2. 驚くことに「IgG抗体陽性」で食物アレルギーと診断されるケースがある
 3. いまだに「卵アレルギーを理由に鶏肉と魚卵を除去」ケースがある

研究代表者の斎藤博久氏は、これらの結果について次のように述べている。

現在のアレルギー診療の水準は、ほとんどのアレルギー疾患はガイドラインに準拠した治療を徹底すれば、症状はほとんどなくなり、健常者とほぼ同じ程度の生活ができるまでにコントロールが可能な時代になっている。患者が安心してアレルギー科標榜医にかかれるようにするには、ガイドラインに準拠した水準の治療が受けられるアレルギー科標榜医の割合を限りなく増やす必要がある。

日本アレルギー学会は、非学会員や非専門医に対しても門戸を開き、学会への参加、専門医資格の取得に関する便宜を図り、診療内容の向上に役立つプログラムを提供する考えである。また、専門医に対しては、急速な学問の進歩や標準治療の変化についていけるように再教育プログラムの充実を図る予定である。

その手始めに、第1回総合アレルギー講習会を今年12月に開催する。また、学会運営を大会長主導から学会主導に変え、毎年一貫した教育プログラムが実施され医学医療の進歩に資するように計画している。

学会としては、重症患者を丁寧に診療し、新しい治療法の開発につながる研究を行う専門家も必要なので、専門医の更新の要件には患者数だけで一律に評価するのではなく、診療内容や研究実績を考慮した制度の充実を図り、世界をリードするアレルギー診療が実現するようにしたい。

つまり、アレルギー診療の均てん化の実現とさらなる進歩を両立させる必要があり、その戦略として、学会主導の教育プログラムの充実、臨床実践力を身につけるため教育研修病院における研修プログラムの開発と充実、研究病院における臨床研究の推進、を図り、アレルギー疾患対策基本法の理念を実現する。

なお、今回の調査は患者側の班員の意見も採り入れて行われた。そして、結果を医療従事者や患者に広く共有し、またアレルギー疾患診療の均てん化を呼び掛け、改善策のご意見を募る目的で、以下サイトで情報公開している。調査に用いた「症例問題とその模範解答」や「現行ガイドラインへの臨床医ご意見集」などもオープンにしているので、是非ご参照ください。

『全国のアレルギー治療実態とガイドラインのギャップ』
http://reports.qlifepro.com/allergy2014/

<参考>用語解説【診療ガイドライン】とは
診療の手順や根拠をまとめた指針書、またはそこに書かれた標準的な診療方法。患者と医療者を支援する目的で作成されており、臨床現場における意思決定の際に、判断材料の一つとして利用される。その分野を代表する学会が内容を作成し、数年に1回の頻度で改訂されることが多い。なお「標準的な診療方法」とは、「科学的根拠に基づき、現在利用できる最良の治療」とその病気に関連する代表的な学会に判定され、ある状態の一般的な患者に行われることが推奨される診療方法を指す。

▼全国のアレルギー治療実態とガイドラインのギャップ
http://reports.qlifepro.com/allergy2014/

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